六本木の国立新美術館で開催されている”メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年”のご紹介の続き。
絵画や美術史に全くの素人が観た、絵画展の勝手な感想です。
”メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年”には、メトロポリタン美術館が所蔵するヨーロッパ絵画約2,500点の中から、名画65点(46点は日本初公開)が展示されている。
ニューヨークのメトロポリタン美術館には数回訪問し、多くの絵に馴染みがあるので、今回の企画展を楽しみにしていた。
今回の展示は三部構成となっている。
65点の珠玉の名画の中から、気になった絵画のご紹介。
昨夜は第一部”信仰とルネッサンス”について記したので、今夜は第二部”絶対主義と啓蒙主義の時代”について。
第二部では、君主による絶対主義体制が強化された17世紀から、啓蒙思想が隆盛となった18世紀にかけての名画、30点が展示されている。
第二部では何と言ってもヨハネス・フェルメールの「信仰の寓意」が目を引く。
これはフェルメールの作品の中で唯一の歴史画。
オランダはプロテスタントの国。
カトリックは公の場所でのミサは禁止されているが、個人の住宅内では黙認されていた。
この女性はカトリックの信仰そのものを表し、キリスト教を示す多くのモティーフが描かれている。
フェルメールは結婚を機にカトリックに改宗したと言われている。
この作品は日本初公開。
日本でフェルメール展を観に行ったのは、2018年の秋。
その時の記事はこちら。
そしてコロナ前最後の海外旅行となった2019年のウイーンとドブロヴニクへの旅でも、ウイーンの美術史博物館でフェルメールの作品を鑑賞している。
その時の記事はこちら。
第二部で存在感を示していたのは、ペーテル・パウル・ルーベンスの「聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者聖ヨハネ」。
縦1.75m、横2.09mの大作。
幼子キリストを中心とする構成美は見る者を魅了する。
この作品も日本初公開。
ベラスケスの精緻な人物像の二作品も素晴らしかったが、私の目を引いたのはサルヴァトール・ローザの「自画像」。
詩人であり俳優でもあった多才な知識人であり、多くの自画像と共に奇怪な絵を描いた画家というイメージ。
頭蓋骨にギリシャ語で”見よ、いつ、いつ”と書いているこの自画像は、内に秘めた激しい気性を見事に表現している。
これも日本初公開。
サルヴァトール・ローザの奇怪な絵画の例を挙げるとすれば、この「デモクリトス」もその内のひとつだ。
カラヴァッジョは好きな画家のひとりで、イタリアを始め色々な美術館で観ている。
この絵もニューヨークのメトロポリタン美術館で鑑賞している。
この「音楽家たち」は中性的な若い男性達が描かれ、そのうちの一人、右奥の男性がカラヴァッジョ本人。
右手前の男性が手に持っている楽譜は解読され、ギリシャ神話のイカロスを主題にしたソネットが記されているのだそうだ。
有名な作品だが、日本初公開。
次に印象に残ったのは、絵画展のポスターに使われている、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「女占い師」。
占い師の老婆がコインを見せながら若い男の気を引き、その間に三人の娘たちが男の金品を盗もうとしている。
この作品も日本初公開。
絵画に美や崇高さを求めてしまう私には理解し難いのだが、公序良俗に反するテーマの絵画も多い。
これはルカス・クラーナハ(父)の「不釣り合いなカップル 老人と若い女」。
老人は若い女の胸に手を当て、若い女は冷静な顔をして右手を老人の金袋に挿し入れている。
こちらは逆ヴァージョンの絵で、「不釣り合いなカップル 老女と若い男」。
こちらは老女が若い男に金を渡している。
愛情は金では買えない、金で買う愛情は本物ではない、という教訓的な絵画なのだそうだ。
これらの絵は2019年12月4日から2月28日まで国立新美術館で開催(コロナによる緊急事態宣言発出で2月末で終了)された、”ブタペスト西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブタペスト-ヨーロッパとハンガリーの美術400年”に出品された作品。
その時の記事はこちら。
オランダの風俗画と言えば、ヤン・ステーン。
今回来日しているのは「テラスの陽気な集い」で、日本初公開。
左端でにこやかに椅子に腰かけているのがヤン・ステーン本人。
真ん中の女性は胸の谷間に花を挿し、絵を見る者に妖艶に微笑んでいる。
猥雑ささえ感じる風俗画だ。
彼は副業で居酒屋を営んでいたので、その風景の一コマなのだろう。
強烈な印象を残したのが、マリー・ドニーズ・ヴィレールの「マリー・ジョセフィーヌ・シャルロットデュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)」。
この絵も日本初公開。
18世紀後半になると女性の社会進出が進み始め、画家を職業とする女性が現れる。
その先駆けはマリー・アントワネットの専属画家のエリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン。
その次の世代がこのマリー・ドニーズ・ヴィレール。
余分な装飾を排し中心人物にのみ意識を集中させる構図は素晴らしく、中心人物は精緻に描かれドレスの質感まで感じ取ることが出来る。
キャンバスと筆を持ちこちらに鋭い視線を向ける若い女性は疲れているようにも見えるが、その眼差しの奥には強固な意志が存在している。
エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの絵も来日している。
「ラ・シャトル伯爵夫人」は宮廷画家としての素晴らしい力量を感じさせる。
画家として成功を収めたヴィジェ・ル・ブランは、本人自身美貌の持ち主だったようだ。
自画像なので修正が入っているとは思うが、確かに美人だ。
こちらは35歳の時の自画像。
ちょっと若作りに描き過ぎているのではと思う。
もう一点だけ印象に残った絵を挙げると、フランソワ・ブーシェの「ヴィーナスの化粧」で、日本初公開。
この絵はブーシェのパトロンであったポンパドゥール夫人の化粧室を装飾するために描かれたもので、原題は「The Toilet of Venus」。
この絵を観て愛らしいと感じるか享楽的と感じるかは見る人次第。
絵の構成力は素晴らしく、見る者を魅了することは確か。
ヴィーナスのあどけない顔と豊満な肉体がアンバランスだが、当時はこのような女性が美の象徴だったのだろう。
第三部は、”革命と人々のための芸術”。
今夜中に、第三部まで書こうと思っていたが、長くなったので明日に譲ることにします。