その店は、『UEDA』。
もう随分長いお付き合いになる。
事前に訪問する旨を伝えておいたので、私のボトル2本がカウンター上に準備されていた。
まずは、上田マスターにご挨拶。
初めてお会いした時からほとんど変わらず、本当に若々しく、年齢を聞くと大抵の人は驚く。
最初の一杯は、タリスカー30年。
タリスカーは、スコットランド西方海上に浮かぶスカイ島にある唯一の蒸留所。
これはその最高峰のモルト。
創業は1830年で、「宝島」の作者、R. L. スチーブンソンが「王者の風格」と絶賛したことでも有名。
こんなシングル・モルトを飲んでいると、普通のウイスキーでは物足りなくなってしまう。
今夜はストレートで飲んでいるが、アルコール度数が57.3度と強いので、ツワイス・アップにしても香りが開き、とても美味い。
「おや、今夜のグラスはベルヴェデールですね」
「ちょっと見ただけでそれがわかる方は、他にはいらっしゃいませんよ」
上田マスターとのこんな会話も楽しい。
「ちょっと珍しいモルトが手に入ったのですが、試してみますか」
「これは素晴らしい。アイラ島に8つある蒸留所のひとつのカリラですね」
カリラとはゲール語で「アイラ海峡」の意味。
アイラ島の大手の蒸留所は南部か西部にあるが、島の北東部、スコットランド本島の方角を向いた場所にこのカリラとブナハーベンがある。
そして原料の大麦は、私が大好きなポート・エレンで精麦されたものを使用している。
このボトルはディスティラーズ・エディションだと思うが、スモーキーなフレーヴァーで、リッチでスムースな素晴らしいモルトだ。
ブルイックラディは1881年創業。
その125年記念ボトルで、世界食後酒コンテストで優勝したもの。
モルトは1970年のもので、世界で2502本しか存在しない貴重なボトルである。
木箱を開けてボトルを取り出すと、空き通ったガラス瓶なので残量がよくわかる。
何となく寂しい気もするが、もう3年くらい掛けてちびりちびりと飲んでいるので、そろそろ飲み空けた方が良さそうだ。
ブルイックラディは、アイラ・モルトの中でも優雅な味わいをしている。
特に1970年のモルトとなると、あの強烈なヨード香もまろやかとなり、世界最高の食後酒に選ばれた理由がわかる。
のはずが、途中にあるラーメン屋さんの香りがあまりに良いので、ついふらふらと店の中に入ってしまう。
禁断の飲酒後の豚骨ラーメン。
今夜だけは自分を甘やかすことにする。
何時も楽しい、小倉の夜でした。