今年の夏、突然思い立って『鹿の湯』に出かけた。
都心から東北道に入り、那須インターで降りて走ること、計三時間半。
那須湯本を抜け、殺生石の前を右に下る。
そしてようやく『鹿の湯』に到着。
那須温泉の元湯である『鹿の湯』は開かれたのは7世紀前半、舒明天皇の御世。
狩野三郎行広という人物が射損じた鹿を追って山奥に分け入ったところ、その鹿が温泉で傷を癒していたとの故事により、『鹿の湯』と命名された。
文献では、聖武天皇の御世、天平10年(738年)の正倉院文書に那須温泉の記載がある。
この玄関は、大正時代に建造された。
そして川を渡った向かい側にある温泉の建物は、明治時代の建造物。
丁度写真に写っている辺りは女風呂で、その右側に男風呂がある。
写真の場所は、休憩室。
川底には硫黄が堆積し、強い臭いが鼻を衝く。
入浴の方法が細かく記されている。
注意して入浴しないと、あっという間に湯あたりしてしまうのだ。
7世紀前半の開湯とのことだが、ポスターには「愛されて1380年」と比較的明快な数字が記されている。
NASUの字の下に見えるのが、入り口のかぶり湯で、温度は48℃。
その奥の湯船は、手前左が41℃、右が42℃。
次の列の左が43℃、右が44℃。
奥の左が46℃で右が48℃。
一番奥の湯船に入ると、熱いというより痛く感じる。
奥には老人がたむろし、手前には若者が集まる。
『鹿の湯』でのんびりと癒されたあとは、車を先に進め、那須岳に向かう。
那須岳は、茶臼岳を主峰とする那須五山の総称。
私は山に詳しくないので、どれが何岳なのか皆目分からない。
一番高く、ロープウェイがあるので茶臼岳と思われる山は、霧に包まれて見えない。
ロープウェイも登り始めるとすぐに霧の中に消えてしまう。
こっちの良く見える山は朝日岳だろうか。
と思って観ていると、霧がどんどん湧き出てきて山を覆い始めた。
ものの2~3分で、あんなにはっきり見えていた大きな山が、霧の中に消えてしまった。
山の怖さを垣間見たような気がする。
さあ、折角『鹿の湯』で温まった身体が冷えない内に、美味い蕎麦を食べに山を下りよう。
この夏の、小さな想い出のひとつでした。