六本木の国立新美術館にあるフレンチ、『ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼ』で彼女と過ごす楽しい夜の続き。
素晴らしい赤ワインが届く。
アラン・ブリュモンが造る、シャトー・モンテュス、マディラン、キュヴェ・プレステージ、2000年。
アラン・ブリュモンは忘れられかけていたぶどう品種、タナを世界レベルにまで高めた人物で、この功績によりフランス最高勲章、レジオン・ドヌールを受勲している。
そのフラッグシップ・ワインが、シャトー・モンテュスのキュヴェ・プレステージ。
濃厚な果実味と強いタンニン。
シャトー・モンテュスのぶどうはタナ中心なので、若いとタンニンが強過ぎる。
タナの語源はタンニンなのだ。
19年間の熟成を経てタンニンは果実味に綺麗に溶け込み、強いがエレガントなボディとなっている。
セパージュはタナ100%。
熟成はオークの樽で14~16ヶ月間、シュールリーで行われ、新樽比率は100%。
赤白の並行飲み。
これはシャトー・モンテュスが強すぎるので、レ・ペニタンを先に飲み干してからマディランをゆっくり飲んだ方が良い。
マグレ鴨胸肉のロースト、根セロリのピューレときのこのボルドー風、赤ワインソース。
マグレ鴨は、シャラン産の窒息鴨と並んで好きな食材。
焼き色が素晴らしい。
この切り身の厚みが嬉しい。
噛んだ時の食感と肉の中から滲み出る旨味がたまらなく良い。
ディジェスティフは、南ローヌを代表する造り手、ファミーユ・ペランのミュスカ・ボーム・ド・ヴニーズ、2010年。
ミュスカ・ボーム・ド・ヴニーズは南ローヌの甘口ワインのAOCで、発酵途中のワインにブランデーを加えて糖分を残す酒精強化ワインで、ヴァン・ドゥ・ナチュレルと呼ばれる。
自然なぶどうの強い甘み。
糖度が高いので、アルコールの高さを感じさせないのが危険。
クラシックなガトー・ショコラ、フリュイルージュのマセレとクーリー、ヴァニラ風味のアイスクリーム。
赤い果実のシロップ漬けが美しい。
ガトーショコラは好きなスイーツ。
バニラアイスクリームとの相性が良いのだ。
デセールを食べながらも、まだシャトー・モンテュスとミュスカ・ボーム・ド・ヴニーズを飲んでいる。
モンテュスを飲み干すと、かなりの量の澱が残った。
「今夜のワインは赤は強すぎるし、ディジェスティフは甘すぎるし、君の好みではなくてごめんね」と私。
「モンテュスは何時もは強いので好きじゃないけど、さすが2000年のVTは熟成が進んでいて美味しかったわ」と彼女。
今夜も飲み過ぎてしまった。
レストランと本体を結ぶ橋を渡り、帰途に就く。
今まで居たテーブルは一番奥。
外から見ると恐ろしい場所で食事をしていたことがよくわかる。
美術館の中は照明が落ち、真っ暗。
三角形のエントランスの明かりも消えているということは、通用口から外に出るということだ。
通用口を利用すると、板張りのテラスに出る。
雲に覆われているが、満月を辛うじて見ることが出来る。
今夜の東京タワーの照明は、インフィニティ・ダイヤモンドヴェール。
後ろを振り向くと、真っ暗になった美術館の中で、レストランのある部分だけが明るく輝いている。
向かったのは、外苑東通りを渡ったミッドタウンガーデン。
イルミネーションが美しい小径を二人で歩くのは気持ちが良い。
芝生広場のスターライトガーデンに至る。
「綺麗ね」と彼女。
「でも、君には負けるよ」と私。
彼女と過ごす六本木の夜は素敵に更けていきました。