4月のこと、友人達と京橋の「アーティゾン美術館」で過ごす楽しい美術鑑賞の続き。
今日のメンバーは、かずみさんご夫妻、しづちゃん、そして私。
鑑賞している企画展は、”見る、感じる、学ぶ アートを楽しむ”。
セクション2は、”風景画への旅-描かれた景色に浸ってみよう”。
昨日の記事で旅した街は、銀座、パリ、ニューヨーク。
続く旅の行き先は、自然。
ポール・セザンヌ、「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」(1904-06年頃) 油彩・カンヴァス
生まれ故郷のエクス・アン・プロヴァンスに聳え立つ石灰岩の山、サント=ヴィクトワール山の連作の一枚。
目に見える一瞬のきらめきを絵画にする印象主義の絵を超え、より強固で堅牢な質感を持つ絵を追い求めた作品。
この革新的絵画が後のキュビスム、フォービスムに与えた影響は大きい。
ピエール・オーギュスト・ルノワール、「カーニュのテラス」(1905年) 油彩・カンヴァス
ルノワールはリウマチを患い、温暖な南仏で過ごすようになり、ニースの西、カーニュ=シュル=メールに1903年に拠点を移している。
画面右端の建物、メゾン・ド・ラ・ポストに部屋を借り、1907年までここで過ごしている。
ポール・ゴーガン、「乾草」(1889年) 油彩・カンヴァス
1889年秋から1890年11月までの間、友人のオランダ人画家メイエル・デ・ハーンと共に小さな宿屋に滞在し、この宿屋の食堂の4つの壁面を自分たちの作品で飾る計画に着手した。
「乾草」はそのうちの1点。
色面に区切られた地面には規則的な筆致が見られ、垂直に伸びる木々は装飾的な効果を生み出している。
アルフレッド・シスレー、「サン=マメス六月の朝」(1884年) 油彩・カンヴァス
サン=マメスはパリの南東約60kmにあるフォンテーヌブローの森の東にある小さな村。
印象派の風景画家の真骨頂ともいえる作品で、特徴のひとつである”青で表現された影”を観ることができる。
ピエール・ボナール、「ヴェルノン付近の風景」(1929年) 油彩・カンヴァス
ノルマンディー地方、ヴェルノンの自宅近くの風景を描いたもの。
奥に突き抜けた中心を明瞭に描き、周囲は抽象的に曖昧に描く構成は、ボナールが人間の眼が見ている情景をそのまま絵画に落とし込んだもの。
ボナール曰く、「要は、生きた対象を描くのではなく、絵画を生きたものにするということである」。
パブロ・ピカソ、「生木と枯木のある風景」(1919年) 油彩・カンヴァス
ピカソには珍しい風景画。
ブラックとともにキュビスムを追求していたピカソが、再び写実的で三次元的空間表現を復活させた新しい様式、いわゆるピカソの新古典主義の傾向が認められる作品。
画面奥の単純化された建物にはキュビスム的な平面性が残されているが、陰影を施された樹木や画面全体の空間には奥行きや量感が感じられる。
ヴァシリー・カンディンスキー、「3本の菩提樹」(1908年) 油彩・板
カンディンスキーは20世紀前半の抽象絵画の創出と発展に大きな役割を果たしたロシア出身の画家。
バイエルン州のアルプス山脈に近い場所で描かれた、カンディンスキーの作風が大きく変化した頃の作品。
厳格なまでの構図と力強い色調の組み合わせが一体となって、不思議な調和、居心地の良さを生み出している。
パウル・クレー、「小さな抽象的-建築的油彩(黄色と青色の球形のある)」(1915年) 油彩・厚紙
1910年代は、ピカソやブラックが主導したキュビスムが美術界に大きな影響を与えた時期。
フランスの美術界の動向に刺激を受け、この絵は”クレーがこれからクレーになろうとしている時期”の作品なのだそうだ。
「アーティゾン美術館」はクレーの絵を27点も所蔵している。
アンリ・マティス、「コリウール」(1905年) 油彩・厚紙
1905年5月から9月まで、マティスは友人の画家ドランとともに南フランスの小さな漁村コリウールに滞在し、それまでの点描から色面での表現へと大きく画風を変化させた。
この作品では風景が大胆に表現され、色彩が自由に使われている。
中央の緑色は教会、前景に広がる薄緑色は浜辺、右側のピンク色はヨットの浮かぶ海。
同年のサロン・ドートンヌでは、マティスら若い画家たちは原色を多用した粗々しい筆づかいからフォーヴ(野獣)と評された。
ここからフォーヴィスム(野獣派)という名称が誕生した。
パウル・クレー、「島」(1932年) 油彩、砂を混ぜた石膏・板
点、線、面、そして色彩という基本的要素を使って造形の無限の可能性を追求する作品なのだそうだ。
音楽を表現したとも言われているが、シチリア島を訪問した後に描かれており、標題どおり島を描いているのかもしれない。
パウル・クレーは好きな画家。
以前「アーティゾン美術館」でクレーに焦点を当てた展示があったので、興味のある方は鑑賞記をご覧ください。
ピート・モンドリアン、「砂丘」(1909年) 油彩、鉛筆・厚紙
極限まで抽象化された新造形主義。
色彩の点を重ねただけなのだが、砂丘に見える。
ウジェーヌ・ブーダン、「トルーヴィル近郊の浜」(1865年) 油彩・板
ノルマンディー地方出身の画家、ブーダンは海景画を得意とした。
彼の作品では多くの場合、低い位置に地平線が設定されている。
この作品でも上半分以上を空が占め、下部に浜辺と人々が描かれている。
ノルマンディー地方にある小さな漁村、トルーヴィルの浜辺に集うのは、流行の衣服をまとったパリの上流階級の男女。
左側のグループの中で、山高帽をかぶって立つ男性は、ロトシルド(ロスチャイルド)男爵、日傘をさして椅子にすわる白い衣服の女性は皇妃ウジェーヌ。
ピエール・ボナール、「海岸」(1920年) 油彩・カンヴァス
先に紹介した言葉に加え、ボナールにはもう一つ有名な言葉がある。
「絵画にまったくふさわしい公式がある。一個の大きな真実をつくり出すためのたくさんの小さな嘘」。
藤島武二、「屋島よりの遠望」(1932年) 油彩・カンヴァス
主に人物画を描いていた藤島武二が風景画を描くようになったのは1928年から。
風景画においては画面構成上、敢えて実景を変えているとのこと。
この絵においても中心をなす海面に意識を集中させるため、周辺の景色をぼかし省略して描かれている。
ピエール・ボナールに相通じる風景画だ。
次の旅の行き先は、イタリア、ヴェネツィア
ここではクロード・モネのヴェネツィア旅行について詳しく紹介されている。
クロード・モネ、「黄昏、ヴェネツィア」(1908年頃) 油彩・カンヴァス
この絵も好きで、「ブリヂストン美術館」の時から何度も観に来ている。
モネはヴェネツィアが気に入り、約二ヶ月の滞在中に約30枚の絵を制作している。
海の筆の静かなタッチと空の筆の激しいタッチの対比が見事。
この絵が「アーティゾン美術館」に収蔵されるまでの経緯も紹介されている。
クロード・モネ、「睡蓮」(1903年) 油彩・カンヴァス
モネの睡蓮の絵は、水面に写り込むイメージ、水面そのもののイメージ、そして水底のイメージ、その三つが絵画で表現されているように感じる。
クロード・モネ、「睡蓮の池」(1907年) 油彩・カンヴァス
まだ若かった頃、そしてここが「ブリヂストン美術館」だった頃のこと。
この絵の前に座り、一時間以上も絵を眺めていたことがある。
すると心が平安になり、迷いも消え、仕事の新たな着想も湧き、気持ちを新たにして美術館をあとにしたことを思い出す。
これでセクション2は終了。
セクション3へと続きます。